基調講演の概要
■ 基調講演①(教育講演) (10:25-11:10)
講師 宮口 英樹 氏(高知健康科学大学)
題目 「”力を出す”から”力を調整する”へ ―身体と感覚・運動・認知による把持調整能力の統合的理解 ―」
本講演では、「力を出すこと」ではなく「力を調整すること」の重要性に着目する。コップを持つ、紙をめくる、食事をするといった日常動作は、単なる筋力ではなく、状況に応じた繊細な力のコントロールによって成り立っている。この把持調整は、感覚・運動・認知の統合による機能であると同時に、身体の包括的機能とも言える。しかし、高齢者や脳障害では老化や機能障害によってこの統合が崩れ、不適切な力の使い方につながり、生活動作や日常生活の質に影響を及ぼす。一方で、この機能は握力など従来の評価では捉えられず、これまで十分に評価されてこなかった”見えにくい機能”である。さらに、この把持調整能力は単なる手指機能にとどまらず、日常生活動作や応用的な動作の基盤となる機能であり、臨床において評価・介入の対象として再認識する必要がある。本講演では、この把持調整能力の重要性を包括的に再評価するとともに、その評価・訓練を可能にする具体的手法(例:iWakka)を紹介する。最終的に、「力を調整する能力は評価・訓練すべき重要な機能であり、そのための実用的手段が存在する」という認識の共有を目指す。
■ 基調講演②(展開講演) (13:20-14:05)
講師 網本 和 氏(仙台青葉学院大学)
題目 「iWakkaを用いた認知-手指運動制御課題による二重課題干渉評価とその展望」
概要 運動課題や認知課題を2つ同時に行う二重課題を遂行すると、多くの場合で一方もしくは両方の課題成績が低下することが知られ、二重課題干渉とよばれている。従来この二重課題干渉の生起過程を定量的にとらえることは困難であったが、iWakkaを用いた認知-手指運動制御課題は、把持力の微細な調整過程に加えて二重課題干渉を定量的に捉えることができる。
iWakkaによる認知-手指運動制御課題と足踏み課題を組み合わせた二重課題では、手指の運動制御課題の誤差(二重課題干渉)が大きく変化し、注意資源の配分や認知負荷の影響を反映することが示されている。さらに、立位姿勢制御課題との組み合わせにおいても、手指把握課題が全身の運動制御に影響を及ぼす可能性が示唆されている。これらの知見から、iWakkaによる二重課題は歩行や姿勢制御と密接に関連しており、とりわけMCIや高齢者においては、運動と認知の統合機能の低下を早期に捉える手段となり得る。
本講演では、iWakkaを用いた二重課題干渉評価を例に、これらの評価に基づき二重課題トレーニングの構築、負荷量漸増の根拠について言及することで歩行自立や日常生活動作の質の向上、さらには転倒リスクや認知機能低下の予測へとつながる可能性について提示する。